成功した後が危ない。

「齢五十のころおい、閲歴日久しく、錬磨已多し。

聖人にありては知命と為し、常人においても、また政治の事に従う時候と為す。

しかるに世態習熟し、驕慢(きょうまん)を生じ易きを以て、則ちその晩節を失うもまたこの時候にあり。

慎まざるをべけんや。」

これは佐藤一斎『言志四録』の言志後録第二四一条に書かれた言葉である。

訳文は以下の通り。

「人も齢五十になると、経て来た年月も久しくなって、物事にみがきがかけられ、習熟もしてくる。

聖人にあっては天命を知るといわれており、常人も政治の事に従う時であると思う。

しかし、この年頃になると、世馴れて来て、驕り心が生じ易く、ついに晩年に節を失うに至るのもまたこの時である。

これは慎まなければならない。」

(訳文は講談社学術文庫の川上正光氏のものを引用しています)

これは会社経営に当てはまる。

独立起業し、会社を作った頃は、社長は謙虚な気持ちでひたむきに仕事をする。お客さんや従業員にも感謝の心がある。しかし、何年も経ち、仕事も慣れ、収益も安定化してくると、驕り心も生じやすくなる。

典型的なケースでは、高価なブランド品を買いあさったり、テレビなどのメディアに本業以外のことで出演したり、自分の成功体験を講演しまわったり、芸能人やモデルとお付き合いすることに精を出したりなど。

こういうことをしていると、思わぬところでしっぺ返しがきたりするので社長は注意が必要である。また、詐欺被害に遭ったり横領などが起きやすいのもこの頃だ。本業以外の投機などに手を出して痛い目を見ることもあるだろう。

「勝って兜の緒を締めよ」とはよく言ったもので、経営が順調な時ほど心を引き締めるべきである。

晩年に差が出た英雄の例としては、豊臣秀吉と徳川家康があげられる。豊臣秀吉は天下を治めた晩年は、朝鮮出兵で大失敗した。原因は諸説あるが驕りから情報収集の手を抜いたことが原因の一つといえる。徳川家康は天下を治めた晩年も手を抜かず、死ぬ間際まで油断ならなかった。

会社が儲かり、社長の年齢が高齢になってくると、周りに真実を進言してくれる人も少なくなってくる。気づいたら裸の王様になってしまうこともよくある。シェークスピアの『リア王』も晩節は驕りから寂しい人生になってしまった。

特に「自分は大丈夫だ」と思っている経営者ほど気を付けるべきである。

今回のオススメ参考図書

[現代語抄訳]言志四録(佐藤一斎著、岬龍一郎訳、PHP)』