大工のたしなみ能き者は、道具をば常々にとぐ事肝要なり。
(「宮本武蔵『五輪書』地の巻」より引用)
これは宮本武蔵「五輪書」地の巻に書かれた言葉である。
意訳すると、大工の重要な心得として、よく切れる道具を持ち、暇な時間は有効に利用し、研げということ。
宮本武蔵は五輪書にて、剣の道を大工の道によく例える。
そして、一流の大工になるには、道具を大事にし、よく研げと言う。
確かに世の一流と呼ばれる人は、よく道具を大事にする。
例えば、メジャーリーガーとして偉業を成し遂げたイチローさんなどもそうだ。彼は他人に自分のバットを触らせないようにした。なぜ?少しでも他人に触られると、感覚に変化が出てしまうからだ。
湿度管理にもこだわったり、特別なバットケースで運ぶようにもしていた。
こちらの動画を観れば、いかにイチローさんが道具にこだわっていたかがよくわかるだろう。
このように、一流になるためには、道具を大切にすることは重要である。
では、経営者や起業家の場合の道具とは何か?
道具を磨くとは何をさすのか?
道具とはツール。つまり、経営者にとってのツールとは「経営技術」。誤解を恐れずわかりやすく説明するなら「戦略構築技術」である。
経営者であれば「良い戦略を立てる技術」に長けていなければならない。将として自明の理である。良い戦略を立てられなければ、会社を存続させることは難儀になり、ついてくる従業員やその家族などを不幸にさせてしまうだろう。
例えば、日本を代表する経営者の一人としてソフトバンクの孫正義さんがいる。孫さんは20代半ば頃に起業した。当時の28才の若かりし孫さんの講演録が経営合理化協会から販売されている。写真がなんとも若々しい。
聴いてみると、「孫子の兵法」や「ランチェスター戦略」などの代表的戦略論を明確に「道具」として使っていることを話している。例えば、「ここは鶴翼の構えで行く」とか「弱者の戦略で行く」など。20代の起業時から確信犯的に著名な戦略論をツールとして活用していたのだ。
特に起業後数年経って、健康を害して入院した2年間、孫さんは「孫子の兵法」に関する書籍を30冊は読んだとのこと。この時の戦略学習が後の世界的企業を作る土台となったことは想像に難くない。
このように、経営者や起業家ならではの「道具=ツール=戦略論」は、宮本武蔵も言っているように、使い方を勤勉に学び、常に研ぐ努力を怠らないことが肝要である。