百戦百勝は良い戦い方ではない。抽象度を上げて敵を丸ごと包み込む。

孫子の兵法第九項、第三章謀攻篇に「百戦百勝は、善の善なる者には非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。」とある。

意訳すると以下の通り。

「百回戦って、百勝するのは、最善の方策ではない。

戦闘せずに敵の軍事力を屈服させることこそ、最善の方策である。」ということ。

まさに孫子の兵法の真骨頂であり、孫子マニアとしては武者震いがするほど興奮する箇所であろう。

要するに、戦って勝つのは得策ではない。戦わずして勝つ方が得策であると。

どういうことか?

 

孫子の兵法によると、戦争をすれば、少なからず兵力や食料などを消耗してしまう。田畑が荒れることもあるだろう。

だとすれば、戦争を仕掛けずに相手が降参してくれれば、何も消耗しないので最も良い策であると説いている。

例えば、ここ日本で起きた明治維新などは、「江戸無血開城」を果たした点で、まさに孫子の兵法によれば最上の策であったといえる。イギリス革命やフランス革命など、歴史上、様々な革命では多くの血が流れている。

 

さて、これを商売に応用してみるとどうだろうか?

私の友人で、独立起業時に健康食品の代理店をやっている者がいた。彼の営業方法は、すでに他社の健康食品を使っている人に「その商品よりうちの商品の方がいいですよ」と説いていくやり方であった。

何もこの営業スタイルはこの友人に限ったことではなく、多くの会社が導入している方法だと思われる。

 

ところが、説明してせっかく購入していただいても、お客さんはまた新たに他社に流れてしまうことがよくあった。堂々巡りであり、なかなか儲けが安定しなかった。

そこで、友人は閃いた。

「同業他社に営業ノウハウを販売しよう」と。

ライバルとお客さんを取り合うのではなく、「コンサルタント」としてライバルに営業ノウハウを販売することで、協力関係を結ぼうと考えたのだ。そうすることで、多数の今までライバルだった会社が「見込み客」になったのだ。

結果、その営業ノウハウは飛ぶように売れた。友人は売れに売れたため、個人事業から本格的に法人化することができた。

まさに「戦わずして勝つ」を応用したケースといえよう。

 

さらに話は続く。

実はその後、同じように「営業コンサルタント」事業を始める人が増えてしまったのだ。また顧客を取り合う混戦状態になってしまった。

友人はまた考えた。今度は営業コンサルタントが事業活動をしやすいように「顧客管理ソフト」の販売を始めたのだ。

そうすることで、雨後のタケノコのように増え始めた「営業コンサルタント」たちが見事に「見込み客」になった。営業コンサルタントが世の中に増えれば増えるほど、友人のソフトを購入していった。さらに、そのソフトは保守メンテナンスなどの定期収入も入ってくるため、友人は安定した収益を未だに得続けている。

これこそ孫子の兵法の「戦わずして勝つ」の実践事例といえよう。

 

商売をやっていると、視野が狭くなってしまうことがよくある。隣のライバルが憎たらしく思えることもあるだろう。

しかし、そういう時こそ、孫子の兵法の「戦わずして勝つ」のくだりを思い出して欲しい。戦ってライバルを屈服させるのではなく、戦わずして「協力」することで、味方や見込み客に変えてしまうのだ。

結果として、血を流すことなく、儲かる商売ができるようになるだろう。