歴史は人間心理を学ぶ宝庫である。ニュースや歴史などの裏側にある「人間心理」を読み解く力が身に付けば、組織作りやマーケティング、または投資活動などに存分に応用が可能だ。
「一部の歴史は、みな形せきを伝うけれども、しかも情実はあるいは伝わらず。
史を読む者は、すべからく形せきにつきて以て情実をたずね出すを要すべし。」
これは佐藤一斎『言志四録』の言志録第一四一条に書かれた言葉である。
意訳すると、歴史の書物などは起きたことは書かれているが、その心理(情)までは書いていないので、心理まで読み解く努力をせよということ。
私たちは小中高と歴史を学んできた。しかし、残念なことは、歴史の教科書には「起きたこと」しかほぼ書かれていないということ(中にはそれさえも意図的に書かないことや、場合によってはありもしないことが書かれていることも)。
例えば、江戸時代に徳川綱吉が「生類憐みの令」を出したことは多くの人が知っているだろう。しかし、なぜ、そのようなものを出したのか?までの心理までは私たちは知ろうとしていない。
生類憐みの令は、徳川第五代将軍である綱吉が出した令だが、私たちの多くは「犬好きな将軍」ぐらいの認識しかないだろう。
ところが、元禄文化を生み出すほどの賢い将軍が、無類の犬好きというだけでこのような令を出すであろうか?当時はまだまだ日本中に毛利、島津、上杉など優秀な大名がいるわけで、犬好きだからといってワガママな令を出したら、これこそ格好の「倒幕」の材料になる。そのようなスキなど作りたくないはずだ。
では、なぜ生類憐みの令を出したのか?というと、当時、武将の武力を示すためのショーとして流鏑馬(やぶさめ)があった。流鏑馬とは、走っている馬の上から矢を射て技量を競う儀式である。
そして、流鏑馬の中でも、最も実力が高いと言われているのが「犬追物(いぬおうもの)」で、走っている犬を射るものであった。
だが、江戸時代になり、徳川幕府は長い泰平な世の中を作りたかった。二度と戦国時代のような世にしたくなかっため、他国の武力を削ぐ必要があった。
そこで、犬追物がある限り、武力を養う武士が出てくる可能性が高いと考えた。だから、生類憐みの令を出し、間接的に「犬追物」を封じたと心理面から考えられる。結果として、武士の力は大幅に削がれ、内乱は減り、江戸時代は約260年という長きに渡り続いた。
このように、歴史をただ表面上からとらえただけでは本質を見誤ってしまう。そうではなく、経営者は歴史などに隠された「人間心理」を読み解くことが肝要である。現代版の「犬追物は何か?」「生類憐みの令は何か?」と類推適用して考えるなど。もしかしたら、知らず識らずのうちに何か動きを封じられていやしないか?思想を誘導されてやしないか?
繰り返すがニュースや歴史などの裏側にある「人間心理」を読み解く力が身に付けば、組織作りやマーケティング、または投資活動などに存分に応用が可能だ。歴史は人間心理を学ぶ宝庫である。